15-4. ゲノム工学:遺伝子ターゲティングからゲノム編集まで
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ゲノム工学
ゲノムDNAの配列をねらって改変する技術
主に遺伝子ターゲティングとゲノム編集の2つの手技がある
【A】遺伝子ターゲティング
概要
遺伝子ターゲティング
デザインされたDNAを細胞に導入し、ゲノムの特定領域を改変する技術
遺伝子の破壊(遺伝子ノックアウト)や挿入(遺伝子ノックイン)の手法があり、遺伝子機能研究に初期の頃から使われている
通常の培養細胞でもつくれるが、マウスES細胞を使うと、それをもとにターゲティングマウスをつくることができる(カペッキら)
具体的には、ES細胞の目的遺伝子を相同組換えによって異種DNA(通常は選択マーカー遺伝子)と交換して目的部分を正確に破壊/改変し、あとは細胞をマウス胚盤胞内に注入し、発生工学的技術を使ってキメラマウスを誕生させる
生殖細胞に組換え細胞があれば、そこから生まれた仔は染色体の一方のみが変異したヘテロマウスとなる
確率的に両方の対立遺伝子が組換わることはほとんどない
ヘテロ同士の交配により、ホモのノックアウトマウス(変異マウス)が作製できる
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memo: 条件(コンディショナル)ノックアウトマウスの作製
ES細胞操作の際、相同組換えにより目的遺伝子領域の前後に34塩基からなるP1ファージの組換え配列loxP配列を挿入する
さらにゲノムにP1ファージの組換え酵素Creの遺伝子を組込み、ある特異的条件下で発現できるようにする
e.g. 誕生後の肝臓、薬剤での誘導
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この細胞から作製したホモ変異マウスは、この時点ではまだ目的遺伝子は正常なため、ふつうに発生し生まれる
しかし図のようにデザインすると、誕生後に肝臓でCreが発言し、幹細胞中のもくてきDNAがloxP同士の組換えで抜け落ちてノックアウト状態になる
このような操作により、誕生後の肝臓でのその遺伝子を解析することができる
必須遺伝子の解析に使われる典型的な手法
【B】ゲノム編集
1) 背景と概要
遺伝子ターゲティングは変異動物の完成まで年単位の時間を要し、誰もが簡単に取り組める実験ではなかったが、この問題はゲノム編集により一気に解決された
ゲノム編集のポイントは「特定ゲノム部位の切断」
切断部分は細胞内で非相同末端結合(NHEJ)により連結されるが、このときに塩基の欠失や挿入が生じやすく、その部分が遺伝子内でかつ読み枠が変化すれば遺伝子破壊(ノックアウト)となる
また連結時に相同DNAを含むDNAやオリゴヌクレオチドを共存させると、相同組換え修復(HDR)により新たなDNA配列の挿入や置換が起こってゲノムが修復される
切断点を2ヶ所に設定すると、ある範囲の染色体の欠失、逆位、重複も行える(染色体編集)
ゲノム編集はDNA切断という単純な操作で遺伝子の特定部位を変異させることができ、操作時間もターゲティングに比べて格段に短い
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ゲノム編集ツールには以下のようなものがある
2) 初期に開発された方法
ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)
1990年代に発表された第1世代のゲノム編集ツール
制限酵素Fok IのDNA切断切断領域に3塩基認識の特異的なジンクフィンガーモジュールを複数連結した構造をもつ(二量体となってDNAを切断する)
ただZFNは塩基配列認識の厳密性に難があり、あまり使われなかった
TALEN(TALエフェクターヌクレアーゼ)
第2世代のツール
コンセプトはZFNと同じだが、DNA結合領域に植物病原菌由来のTALエフェクター(TALE)を使う点が異なる
TALEはアミノ酸の違いによって特定塩基配列を認識することができるため、各塩基を認識するTALEモジュールを塩基配列に従って連結し、それをFok IのDNA切断領域に結合させる
ZFNに比べ正確な塩基配列認識能を示す
3) 現在の中心的方法CRISPR/Cas9: 概要, 利点, 展開
CRISPR/Cas9法
タイプIIのCRISPR/Casシステムを利用するゲノム編集ツール
細胞にCas9タンパク質とデザインしたsgRNA(シングルガイドRNAあるいはgRNA)を発現するプラスミドを導入する
sgRNAは約20塩基の標的配列とPAM配列(NGG配列)、そして約40塩基長のヘアピン構造をもつ
sgRNAが標的ゲノム配列と相補的に結合すると、Cas9がDNA(PAM配列から3~4塩基標的側の部分)を二本鎖切断する
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本法は切断ツールとしてのCas9に共通に使え、後は標的配列を含む合成オリゴヌクレオチドを準備するだけでよく、時間、難易度、費用を軽減できるため、発表(2012)と同時に爆発的に拡がっている
受精卵にも直接応用でき、個体作製も最短約1ヶ月で終了する
CIRSPR/Cas9法は脊椎動物、無脊椎動物、植物など多岐に利用でき、またES細胞やiPS細胞などといった多様な培養細胞、そして受精卵でも利用可能
DNAを切断するだけでなく、ヌクレアーゼ活性のないCas9であるdCas9にさまざまな制御因子を融合させて、目的遺伝子を活性化したり抑制したりする応用法もあり、さらにGFPのような蛍光タンパク質と融合させると標的遺伝子座の可視化ツールとしても使える
sgRNAの標的配列がすべての遺伝子をもう網羅するゆおにしたライブラリーをつくると、遺伝子の機能スクリーニングの材料として使え、井手に試料やウイルス感染防御などのツールとして利用できる可能性もある
memo: CRISPR/Cas9法の課題
この方法ではsgRNAがPAM配列をもつことが必須だが、場合によっては標的配列の隣にPAM配列がない場合がありうる
また、sgRNA中の5'側の標的配列との塩基対結合が比較的ルーズなこともあり、本来の標的以外の部分(オフターゲット)も標的になりやすい
Column CRISPR/Casシステム:細菌の獲得免疫システム
細菌にはクリスパー(CRISPR:clustered regularly interspaced short palindromic repeats)と呼ばれる短い反復配列があり、またその上流にはCRISPR-associated genes(Cas遺伝子群)があり、Cas遺伝子群の1つであるCas9は二本鎖切断酵素活性を持つ
細菌にファージやプラスミドなどのDNAが侵入すると、そのDNAの一部がRISPR反復単位の内部に組込まれる
CRIPSR領域の転写物は反復配列単位で切断されたcrRNA(CRISPR RNA)にプロセスされるが、それぞれのcrRNAにCas9とtracrRNA(trans-crRNA: crRNAと一分相補性を持つ小分子RNA)が結合して複合体が形成される
このような状態の細胞に以前侵入したファージやプラスミドが再度侵入すると、再侵入DNAに該当するcrRNAをもつ上記複合体がcrRNAの相補的な部分で結合し、ここでCas9が働いて再侵入したDNAが分解される
この機構は、細菌の獲得免疫機構と捉えることができる
上述のシステムはタイプIIといわれ、ゲノム編集ツールのもとになっている
トランスジェニック動物
外来遺伝子が挿入されたゲノムを全身の細胞にもつ動物をトランスジェニック動物(遺伝子導入動物)という
マウスの場合、受精卵の核にcDNAを発現できる形にしてDNAを微量注入し、子宮に戻してマウスを出産させる
外来遺伝子は時期も場所もランダムにゲノムへ挿入されるため、生まれたマウスは導入遺伝子に関してキメラとなる
外来遺伝子を生殖細胞にもつマウスから生まれた仔は、ヘテロのトランスジェニックマウスとなり、それをもとにホモのトランスジェニックマウスも作出できる
この技術は育種を目的として家畜に応用されている